サイン会でいまひとつ気になるのは、サイン会場とお客さんたちの並ぶ場所である。
前者はテーブルの高さと椅子の位置が合えばさほど問題はないが、できることなら正面に並んでもらうことにこしたことはない。そのほうがこちらからも大体の様子がわかるし、お客さんもあまり退屈しないですむかもしれない。
それより問題なのは、お客さんの並ぶ場所である。せっかく来ていただいたのに、ときにかなりお待たせすることがあるかもしれない。
こういうとき、狭い空間や倉庫のようなところで待ってもらうのは失礼である。しかし書店にはもともとあまり大きなスペースがないので、つい手狭なところに追い込むこともあるかもしれない。
とくに戸外などでは雨の降ったときに困るし、内部でも長時間立ったままでは高齢者の方などは大変な苦痛である。
さらに列の最後尾がわからず、戸惑う方もいるかもしれない。
しかし、机の前に座ってサインするだけのわたしには、そうした列の状態がわからない。
でも以前、並んでいるうちに気分を悪くされた方が出てから、たえず列の様子を見るように、わたしの事務所のスタッフや同行の編集者に注意をするようにいっている。
むろん書店の事情もあるだろうが、サイン会をして一番安心していられるのは名古屋の星野書店である。ここは社長さんの配慮でわたしの前に5,6人が座れる横長のベンチを縦に5,6列並べ、その先は立って待ってもらうが、店員さんが「次は整理番号、何番から何番です」と案内してくれる。
これだと前の人は座って待つことができるし、番号に合わせてくれればいいから時間のロスも少なくてすむ。
すべての書店がこういうわけにはいかないが、せっかく来て下さったお客さんに、できるだけ苦痛を与えずサインして差し上げたいと願っている。
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北海道生まれ。医学博士。1958年札幌医科大学卒業後、母校の整形外科講師となり、医療のかたわら小説を執筆。1970年「光と影」で直木賞を受賞。 1980年に吉川英治文学賞を、2003年には菊池寛賞などを受賞する。